初春の候、寒さもいっそう身にしみる昨今、まだ来ぬ春が待ち遠しく感じられます。
昨年来、新型コロナウイルス感染拡大の収束の兆しが見えない中、草原を守り育むための火入れ作業、草刈り作業を中止した事例が増えてきました。草原体験を盛り込んだ観光も大きな打撃を受け、子どもたちの野外学習、環境学習も実施が困難になるなど、多方面わたり悪影響を受けています。
このような状況の中、6 月に当ネットワークは一般社団法人として体制を強化し、コロナ後の飛躍を誓いました。また、個別にはオンラインでの野外ワークショップなどの新しい試みも行われました。阿蘇では、農畜産業の場である草原(牧野)に立ち入る際の防疫上のルールとガイドラインが作成されました。「全国草原100 選」に向けた作業もオンライン上で継続され、コロナの収束が見込めれば、現在中断されている「全国草原サミット・シンポジウム」の再開も期待されます。また、研究の面では、阿蘇地域を舞台に地域循環共生圏構築をめざした共同研究が実施されており、草原が極めて高い水源涵養力をもつことを裏付ける知見と下流域との関係性がつまびらかになってきました。
さらに、12 月には、ユネスコが「伝統建築工匠の技」を無形文化遺産に登録することが正式に決まりました。「伝統建築工匠の技」は17の伝統技術で構成され、この中には農家の生業と暮らしの中で受け継がれてきた「茅採取」の技術(保存団体は一般社団法人日本茅葺き文化協会)が含まれています。今回の登録をきっかけに、茅葺きの良さ、茅場・草原の意義が大きく見直されていくことが期待され、大変に勇気づけられます。
茅場を含め、草原にまつわる技術には多くの伝統的な匠のわざが存在します。火入れを効果的、安全に行う伝統の技術(例えば、火付けの判断、迎え火の技術など)、牛の餌や堆肥原料の野草を屋外貯蔵する知恵(例えば、阿蘇の草小積み、四国のコエグロ、飛騨地方のニュウなど)、さらに、野草の野営テント(阿蘇・端辺原野の草泊り)、土塁や石塁の保全維持、盆花の採取と文化などなど、数え上げれば枚挙のいとまがありません。当ネットワークとしても、これらの伝統技術に立脚した「草原文化」を大切に保全、伝承していくことに貢献していきたいと思います。
コロナ禍でいろいろな活動が制限され、イベントが中止されても、草原を守る活動には終わりはありません。一日も早く新型コロナウイルス感染症が収束し、以前と同じように、皆さまと打ち合わせや交流ができることを切に願っております。このうえは、更なる情報の蓄積と共有を図り、草原の価値・意義の再評価へとつなげ、皆様の活動支援やネットワークづくりに貢献するために一層努力してまいりますので、今後とも、ご支援・協力を賜りますようお願い申し上げます。
2021年元旦
一般社団法人 全国草原再生ネットワーク
会長 高橋佳孝