草原シンポジウムの質問票回答(5)安比高原ふるさと倶楽部・岩手県立大学 渋谷 晃太郎さん 

安比高原シバ草原 草原と馬事文化の維持を目指して
渋谷 晃太郎(安比高原ふるさと倶楽部・岩手県立大学)

Q.木曾においで頂けますか?

A.さまざまなつながりで、木曽馬の2歳馬を1頭借りて放牧しています。これまでのご縁もありますのでぜひ木曾にお伺いして、木曾馬の話や草原のお話を聞きたいと思います。その節はよろしくお願いいたします。

Q.馬は食用には見られませんでしたが、どうですか? (馬食文化は? →ない?)

A.「馬と人の江戸時代」兼平賢治著によると岩手では馬と人との関係が深く、「肉」として食する文化はあまり発展しなかったと書かれています。確かに、肉屋さんでも馬肉を売っているコーナーは少なく、スーパーではほとんど見かけません。馬食文化はあまり盛んではありません。一方、岩手では繁殖用の大型の農耕馬の飼育が行われていて、毎年子馬が生産され、九州方面に肉用として売られています。次に述べる「チャグチャグ馬コ」では、農耕馬が大型化しており、子馬を連れているものが多く見られます。馬肉の値段が高いことから、農耕馬の値段も高くなっており、馬の飼育が続けられるので「チャグチャグ馬コ」が存続できるひとつの理由になっているようです。

Q.馬にまつわる行事は?

A.岩手の馬事文化で最大のものは「チャグチャグ馬コ」です。
『毎年6月に行われる「蒼前様」を信仰とするお祭で、100頭ほどの馬が、滝沢市の蒼前神社から盛岡市の八幡宮まで13キロの道のりを行進するお祭です。馬のあでやかな飾り付けとたくさんの鈴が特徴で、歩くたびにチャグチャグと鳴る鈴の音が名称の由来といわれています。馬の飾りは、大名行列に使われた「小荷駄装束」に端を発するといわれ、色とりどりの装束に身を包んだ馬が行進する様子は圧巻です。また、そのように馬を飾り付けるのは愛馬精神のあらわれともいえるでしょう。
もともと旧暦の5月5日に行われていましたが、農繁期と重なるため昭和33年から新暦の6月15日とされました。平成13年から、6月の第2土曜日に開催されます。また、昭和53年には文化庁から「記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財」に選択され、平成8年には、馬の鈴の音が環境省の「残したい“日本の音風景100選”」に選出されています。』(滝沢市HPより)
もともとは農耕馬への感謝をするために行われたものですが、現在は農耕馬の活躍の場は「馬肉」になるほかはなく、もっぱら「観光」のために馬が集められてきます。年々出場する馬が減ってきており今年は70頭ぐらいでした。今年は特に暑い日でしたので馬も大変だったと思います。あとは、遠野市での流鏑馬、おしら様信仰などの馬事文化が伝えられています。

Q.草原から得られる茅などの「資源」を事業として利用していくには、産業としても大きい建設業界との協働が友好のように思うのですが、何か今までアプローチをされたことなどはないか?

A.安比高原は、家畜による圧力が強くかかり茅ではなくノシバの草原になっていました。ただ、近年は、放牧が休止され、人為的な刈払いが行われている草原があり、ススキ草原となっています。現在は刈り倒したままで放置されており、草原の管理上も問題があります。
ご指摘の点は、これまでほとんど考えてこなかったことなので、今後ススキの有効活用についても検討したいと思います。ご指導をお願いいたします。

Q.南部馬を復活させられたら、どんな分野で活躍させたいですか?

A.ご存知と思いますが、南部馬は、明治時代以降優秀だったがゆえに外国産馬と交配され純血種はいなくなってしまいました。北海道和種(道産子)には、南部馬の血が色濃く残されているといわれており、一部に南部馬の復活を検討している人もいますが、具体的ではありません。遠野では、馬搬が行われており、わずかですが馬耕も始まっています。このほかホーストレッキング、ホースセラピー、街中の清掃(ごみ収集)、草原の再生など複数の仕事をこなす「ホースワーク」ができないか検討が進められています。
余談ですが、南部馬は、比較的小型であったといわれていますが、「チャグチャグ馬コ」は見栄えが大事なので大型馬でないと支援金が出ない仕組みになっているようです。南部馬が復活しても「チャグチャグ馬コ」には出場できないかもしれません。

Q.安比高原ふるさと倶楽部さんの情報が見つけられなかったのでお話を聞くことができてとても良かったです。使役動物としての馬についても興味深く感じます。放牧する馬については実験中の早い段階からブランド化(どのような体格、色など)しておくことがいいと思います。

A.本来であれば、南部馬に近い馬の導入が望ましいのですが、農耕馬そのものが少なく、繁殖馬は栄養が不足するため放牧できないなど、馬の確保が当面の課題です。競走馬(サラブレッドなど)は、放牧には向かず、粗食に耐える在来馬の確保は岩手でも難しく、今年も4頭しか放牧できておりません。このため、当面は草原の再生のためには、在来馬にこだわらず導入せざるを得ないと考えているところです。
安比高原での試みが安定し、在来馬に仕事が生まれれば、新たな展開(南部馬の復活など)ができるかもしれません。今は目先のことで右往左往していますが、ご指摘のとおり、将来を見据えて、「安比の放牧馬」が1つのブランドになるように考えていくように致します。

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