なぜ草原が必要なのだろう

失われゆく日本の草原

日本の草原は火入れ、放牧、採草など、人の営みによってはぐくまれ、各地にふるさとの原風景と呼べるすばらしい景観を作り出しました。しかし、明治時代には国土の約3割以上を占めていた草原は、高度経済成長とともに利用されなくなり、現在ではその全国土の1%以下にまで減少しています。数百年以上をかけた日本の農村文化の象徴とも言える草原が、いま、失われようとしています。

日本の草原が育くむ自然

一見すると緑一面に見える日本の草原には、実に多様な植物が生育しています。森林にも劣らないほどの植物の多様性は、それを食べる昆虫や草食動物、さらに食物連鎖の高位にいる肉食動物の生息を支えています。いわゆる「改良草地」と呼ばれる人工的な牧草地には、外国産の牧草が播かれているので、生態系は非常に単純です。生物の多様性こそが本来の草原が持つ姿なのです。

文化としての日本の草原

豊かな自然を支える一方で、日本の草原は様々な文化を産み出してきました。春先に行われる野焼きや、草を利用する技術は、その土地の風土や地形によって形作られ、各地で地域固有の農業文化を形づくりました。日本の草原景観が持つ価値の高さは、国立公園や国定公園の指定要件に各地の草原が盛り込まれていることからも明らかであり、観光資源として大きな役割を果たしています。さらに近年では、草原を題材として質の高い環境教育が行われています。

日本の草原保全と再生

絶滅が心配されている草原性の動植物にとって、国内に残された生息地はごくわずかです。そして、その草原を支えてきた山焼きをはじめとする地域の文化も失われようとしています。草原は、生物多様性と地域文化の醸成という両方の面において重要な役割を担っており、次の世代に引き継いで行くべき自然環境です。森の国と呼ばれる日本で、草原の保全と再生は、至急に取り組むべき国家的な課題です。

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